The secret life of bees
 
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The Secret Life of Bees
 

 by Sue Monk Kidd
May - June 2013
第14章
その後しばらくリリィは仕事を休み、川辺で静かな時を過ごしていた。母のこと、自分とロザリンの行く末など考えることはいくらでもあった。しかし時が止まったようなリリィの世界とは対照的に、周囲は着実に動いていた。

まずジェーンとニールの結婚式の日取りが決まり、ボートランド家は結婚式の準備に余念がない。ロザリンは新しいドレスに身を包み、さっそうと選挙権の登録に出かけ、ザックは白人の高校に入る決意を語った。オーガストからは、強さや慰めや安らぎなど生きていくのに必要なものはすべて、自分の心にいるマリア様から得ることができる、それは例え母親がいてもいなくても同じことだと教えられる。

周りの人々の前向さとオーガストの言葉に励まされ、やっとリリィは日常に復帰する準備ができた。しかしその矢先、父親のT.レイが突然戸口に姿を現す。間の悪いことにちょうどその場にはリリィしかいなかった。パニックになる気持ちを抑え、獲物を追い詰めたというような笑いを浮かべているT.レイを居間に通す。居所を突き止めたのは、リリィが弁護士事務所からかけたコレクトコールの請求書のおかげと上機嫌だが、リリィがつけていたクジラのピンに気づくと態度が一変した。

そのピンはT.レイが母の22歳の誕生日に贈ったものだった。オーガストが母の実家の家政婦だった関係で、母がこの家にしばらく滞在していたことを明かすと、T.レイは逆上しリリィを殴りつけた。そして次第に目つきがおかしくなり、リリィと母を混同し始める。ナイフをちらつかせて連れて帰ろうとしたので、リリィは思わず「ダディ!」と叫んだ。我に返ったT.レイの目にはもう悲しみの色しかなかった。

帰る、帰らないの押し問答が始まると、ドアの陰で出番をうかがっていたオーガストとロザリンが姿を見せ、玄関からは「娘たち」が転がり込んできた。皆が「絶対にリリィを返すものか」という強い意志をみなぎらせている。その女性ばかりの団体を前にT.レイの決意が崩れつつあるのは明らかだった。そして、オーガストがリリィはここで養蜂の弟子入りをして一生懸命やっていることを話し、きちんと学校にも行かせることを約束すると、T.レイはむしろ渡りに船といった様子で「ま、さっぱりすらあ」(”Good riddance”)という捨て台詞をはいてボートランド家を立ち去った。

リリィは通りに出ようするT.レイのトラックを止め、最後に母が亡くなった日の出来事を再確認する。T.レイは淡々と、以前言ったとおりリリィが拾った銃の暴発が原因だった言って走り去った。ふり返るとベランダにオーガストとロザリンと娘たちが待っていた。リリィはこの瞬間を記憶に留めた。

季節は進み、リリィは先月結婚したジューンの部屋に引っ越した。景色のいい2階にあり、オーガストが新品の白いベッドと化粧台を入れてくれた。週に一度やってくる弁護士のフォレストさんの話では、感謝祭ごろにはリリィとロザリンにでている告訴が取り下げられるらしい。学校ではフォレストさんの娘のベッカと仲良くなり、ランチはザックと同じ席につくので、「黒人びいき」と非難され、丸めた紙を投げつけられている。しかしベッカもリリィも意に介さない。

暇があれば書き物をし、嘆きの壁の管理もしている。毎日欠かさず黒いマリア像もながめる。今ではふと思いがけないときに、自分の中にマリアの存在を感じることもあった。そしていつもあの日を思い出す。T.レイが去って行った後、ふり返るとたくさんの母がベランダにいた日。「みんな私を照らす月なのだ」(”They are the moons shining over me.”)、リリィはその想いを深く胸に刻んでいた。

コメント
この話が始まる1964年(昭和39年)のアメリカは激動の真っただ中でした。前の年にジョン・F・ケネディが暗殺され、副大統領であったリンドン・B・ジョンソンが大統領に就任し、公民権法の制定、社会保障の拡充、学校教育に対する連邦援助などの政策を次々に実現していきました。その一方でベトナム戦争の勝利に躍起になり、米駆逐艦が北ベトナムの攻撃を受けたとする「トンキン湾事件」を口実に議会の支持を得て戦争を拡大し、翌年の65年には全面的北爆および地上軍の大量投入に踏み切りました。
ちなみにその年は日本でも東海道新幹線の開通、東京オリンピックの開催、佐藤内閣誕生など大きな出来事が続いています。

この物語は人種、銃、宗教、親子関係など現代にも通じる様々な社会問題を背景に、14才のリリィが周りの人々からの助けで、困難をひとつひとつ克服しながら成長する過程が描かれていました。ミツバチの複雑な構造をもちながら合理的な生態が随所に織り込まれているのも、何やら暗示的であると同時にとても映像的で、ハチたちの羽音が聞こえてくるようでした。「リリィはもう大丈夫、立派に成長した」、そう思わせる最後は感動的でした。願わくばT.レイにも救いがあるといいのですが。

最後に本書を推薦してくださったYさん、どうもありがとうございました。

(☆)

Apr. - May 2013
第13章
その夜、リリィの怒りが爆発した。ハチミツの瓶やバケツを手当たり次第投げまくり、床は割れた瓶の破片だらけ、壁はおろかマリア像もハチミツまみれになった。ガラスの破片で怪我をしたリリィはそのまま床の上で寝てしまう。翌朝この惨状を目にしたロザリンはただ驚くばかり。怪我の手当をしながらロザリンは、デボラが出ていった顛末は知っていたが、リリィの気持ちを慮ると何も言えなかったと告白する。その後、二人はもくもくと蜜小屋の掃除に励んだ。

午後には「娘たち」がやってきて、マリアの日の最後を飾る行事が行われた。途中、苦労してきれいにしたマリア像にオーガストがハチミツをかけるのを見て、リリィとロザリンは思わず目を合わせた。ここでは聖水のかわりにハチミツを使ってマリア像を浄めるのだった。

儀式の後、部屋で落ち込んでいるリリィのもとにオーガストが訪ねてきた。彼女は帽子箱を抱え、中には母親の遺品が入っていると言う。小さな手鏡とヘアブラシ、潮を吹くクジラをかたどった金色のピンに、自分が贈ったという詩の本、そして最後に箱からあらわれたのは、赤ちゃんだった自分と母親の写真だった。はじけるような笑顔の母が自分に顔を寄せている。リリィは窓から流れてくるジャスミンの匂いに気づき、深く息を吸った。そして遂に見つけた母の愛の証を手にして目を閉じた。

(☆)

Jan. - Mar. 2013
第12章
リリィは「マリアの娘たち」が帰ったあと、オーガストの部屋で彼女を待つ。ようやく戻ってきたオーガストに、母の写真を見せると、「まったくよく似てるわ」という第一声。そして一目見た時からデボラの娘であると気づいていたことを明かされる。

唖然とするリリィに、オーガストは以前、リッチモンドのデボラの実家で家政婦をしており、9年間子供の頃のデボラの面倒をみていたと言い、まずはリリィが、ここに来た理由を尋ねる。リリィは、T.レイから母親は自分を捨てて逃げていったと聞かされたこと、ロザリンを警官の目を盗んで連れ出したことを涙ながらに語り始めると、ずっと押さえていた感情がほとばしるのを抑えられず、母親の死が幼いころの自分のせいであることも告白する。

自分は誰からも愛される資格がない、とうなだれるリリィの目をしっかりと見つめ、オーガストはジューンやメイ、ザックにロザリン、そしてなにより自分もリリィのことを愛していると伝える。そして子供の頃のデボラは可愛らしい子ではあったけど、手のかかる子で、寝ぼけて歩いたり、架空の友達と遊ぶなどして、お母さん、つまりリリィの祖母がいつも心配していたことを語る。

家政婦をやめて教師になってからも、デボラとの付き合いは続き、やがて彼女との手紙のやりとりにT.レイの名が登場するようになる。最初はうまくいっていたが、やがて粗が見えてきてプロポーズを断るが、ある時承諾。その理由はお腹に赤ちゃんが…という話にリリィは「自分は望まれて生まれてきた子ではなかった」とひどくショックを受ける。

しかし、デボラは生まれた子供はかわいいと、リリィの事ばかり手紙に書いてきたという。徐々に手紙の間隔があいてきたある年、デボラからT.レイと別れたいので、しばらくオーガストの家においてほしいとの電話がくる。その後、母が自分を置いて一人で来たことを聞き、リリィはさらにショックを受け、オーガストの部屋を飛び出す。

リリィを追ってきたオーガストは続きを話す。デボラは骨と皮だけの変わり果てた姿になったおり、食事も受け付けない。一週間、泣き暮らすだけで、病院へ連れていくと、精神病院に入る事をすすめられるほどうつ状態にあった。3か月の滞在でようやく少し落ち着きを取り戻したデボラは、リリィを迎えにT.レイのもとへ行く。オーガストが最後に見たデボラは、バスに乗って手を振る姿だった。

その後のことはリリィが一番よく知っていた。 母がスーツケースに衣類を詰め込む姿や、母とT.レイとの争い、落ちた拳銃を拾ったことなど一部始終をオーガストに話す。オーガストは、いつまでも帰ってこないデボラを心配してあちこち電話をしたが、デボラは事故で死んだと言うだけで、誰も詳細を教えてくれず諦めるしかなかったと語る。嘘を手放し、真実を手に入れたリリィは、どちらが重荷になるか分からないままシーツにもぐりこむ。

(☆)

Dec. 2012 - Jan. 2013
第11章
メイの埋葬が済むとオーガストは蜂の世話を休み、昼過ぎまで森から出てこないこともあった。ポートライト家の面々がそれぞれのやり方で喪に服すなか、リリィはいつか自分とロザリンがオーガストの家を去ることを考えると胸がつぶれそうになった。

ザックは以前と違って、常に怒りに燃え、持ち出す話題は人種差別や抗議運動に関することばかり。リリィはザックの話に耳を傾けながらも戸惑いを禁じ得なかった。

数日後、蜜?のキャンドルライトのもと、久しぶりにオーガスト、ジューン、ロザリン、リリィがそろって食卓を囲んだ。食後にオーガストは、メイの遺書を紙飛行機のように折って、黒いマリア像の切れ目に差し込むと、ふうっと息を吐き”Well, that’s that.”(「さて
終わったね」)とつぶやいた。

翌日、マリアの日を祝う準備にボートライト家が大わらわするなか、ジューンがとうとうニールのプロポーズを承諾した。気が変わらないうちにと、そのまま連れて行かれた宝石店で選んだダイヤの指輪を、幸せそうに見せびらかすジューン。一方、リリィは今夜こそオーガストに真実を話すことを決意した。

「マリアの娘たち」が勢ぞろいし、マリアの日の儀式が始まった。輪になってはちみつケーキを一片ずつ「これは祝福されたマリアの体」と言って隣人に食べさせる。全員が食べたところで、マリア像を蜜小屋に運び、オーガストの講話とジューンのチェロの演奏をバックに、マリア像に鎖を巻きつける儀式が始まった。

リリィは、がんじがらめのマリアが可哀想でたまらずに外に出る。ザックも追いかけてきた。ふたりはメイの壁を通り越し、川へと向かう。リリィにとって、川は命を奪う場所であると同時に、再生の場所でもあった。

ふとリリィはザックに幼い頃の苦い思い出を語り始める。小さい頃、家の近くの池で、隣の兄弟に、生きた魚を首の周りに括り付けられてしまい、自分が池に入れば生かすことができたかもしれないが、怖くて途中でひきかえしてしまったこと。結局、自分がしたのは男の子たちに懇願するだけで、まもなく魚は死んでしまったこと。

リリィは、その男の子たちは世の中に怒りを感じていたので、意地悪をするようになったかもしれない、ザックはそうならないで欲しいと頼んだ。頷いたザックはリリィに優しくキスをしたあと、いつか大物になって必ず会いに来ると言って、自分の名札付きの鎖をはずしてリリィの首にかけた。

(☆)

Oct. - Nov., 2012
第10章
メイが出て行ってから20分後、オーガスト、ジューン、ロザリン、リリィの4人は、メイを探しに出かけた。メイは「歎きの壁」にはいなかった。壁の向こうの林の中、そしてさらに川のほうへと探して歩いた。リリィは自分でも気づかないうちに、マリアへの祈りの言葉を口にしていた。
警察に連絡するため一度家に戻っていたジューンが再び合流し、川岸に沿って探し歩いた4人は、メイの懐中電灯が落ちているのを見つけた。オーガストが懐中電灯を川の中に向けた時、川の中のメイの姿が目に入った。メイは自分で胸の上に石を乗せて、川の中に横たわっていた。
「死んじゃったよ」オーガストは言った。リリィはふるえながら、こうやってマリアもチャールストンの川に打ち上げられたのだろうかと思った。
「エープリルのときと同じだね」とジューンが言った。オーガストとジューンが、メイを川から引き上げ、身体や服の汚れをぬぐうのを、ロザリンとリリィは茫然として見ていた。突然闇をつんざく音。それは妹を失ったオーガストの号泣だった。

留置所でザックと面会した時に会ったヘーゼルワーストという若い警官がやって来たが、メイは鬱病による自殺ということで、特に問題にはならなかった。警官はむしろ、白人の女の子がなぜ一人でこの家にいるのかという事のほうを気にして、いろいろとリリィに質問を浴びせた。
リリィは例によって、母親はずっと前に病死、父は先日事故で亡くなり、ヴァージニアの叔母の家に行く所だったが、叔母が入院してしまったので、乳母のロザリンと一緒にここにいるのだと嘘を並べる。ロザリンも、オーガストは別れた夫のいとこで、自分とは仲良しなのだと言って援護した。ロザリンもずいぶん嘘がうまくなっていた。
警官は、黒人の家に白人の女の子がいるのは「自然じゃない」、「もっと自分を大事にしなくちゃ」とリリィに忠告を与え帰った。
傷心のリリィはバスルームで、浴槽の足に赤い靴下がはかされているのを見つける。こんなことをするのはメイの他にいない、それを忘れたくないと思うリリィだった。

メイの突然の死という事件のために、母のことをオーガストに打ち明け、相談しようとしていたリリィの計画も延期せざるをえなくなった。
母がこの家にいたという重要な事実がわかったのはメイのおかげだったが、そのメイはもういない。
悲しみに沈む一家にとって、嬉しい出来事もあった。事件の目撃者がようやく警察に事実を話し、ザックが釈放されたのだ。
ザックは自分が逮捕されたことがメイの自殺の原因になったことを深く後悔していたが、オーガストは、「私も、こうしていればメイは死なずにすんだ、と思えることはいろいろあるが、結局は、メイが自分で選んだことなのだ」と言う。
リリィは、オーガストとザックから、養蜂家の元祖アリスタイオスの逸話を聞き、蜂には死を乗り越える力があり、魂の復活に関わる存在だと知らされる。
「マリアの娘たち」の仲間が、ごちそうをどっさり持って集まってくれた。皆で冗談を言い合うなど、お葬式といっても陽気な集まりだ。彼女たちの中にいて自分一人が白人の異分子という感じは、もうすっかり消えていた。あの警官が言ったことなど何も気にすることはないと思い、リリィは笑顔を取り戻した。

2日目の朝、オーガストがメイの遺書を見つけた。自分はもうこの世界の重みに耐えられないので死ぬけれど、二人はまだまだ生きて下さいという、オーガストとジューンにあてた遺書だった。
オーガストは、メイの遺志を実行しなければいけないとジューンに言う。中途半端な生き方はやめて、思いっきり、こわがらずに生きるべきだと。それは、以前の失恋によって恋愛に臆病になっているジューンの背中を押し、ニールのプロポーズを受け入れさせることを意味していた。
こうして4日間、家族や仲間に見守られたメイが、いよいよ埋葬される日、リリィの耳にはいつまでも蜂の羽音が聞こえていた。

コメント

◇メイを探しながらリリィが口にするマリアへの祈りは、「天使祝詞」と呼ばれるカトリック教会の聖母マリア祈祷文で、大天使ガブリエルによって受胎告知と共にマリアに伝えられたものと言われます。
ラテン語原文は次の通りです。

Ave Maria, gratia plena, Dominus tecum, benedicta tu in mulieribus, et benedictus fructus ventris tui Jesus.
Sancta Maria mater Dei, ora pro nobis peccatoribus, nunc, et in hora mortis nostrae. Amen.

長らく文語訳が使用されてきましたが、現在は、口語訳が公式に採用されています。
(物語中での祈りは、訳者によるオリジナル訳だと思われます)

【文語訳】
めでたし、聖寵充満てるマリア、主、御身と共にまします。
御身は女のうちにて祝せられ、御胎内の御子イエズスも祝せられ給う。
天主の御母聖マリア、罪人なるわれらのために、今も臨終(いまわ)の時も祈り給え。アーメン

【口語訳】
アヴェ、マリア、恵みに満ちた方、主はあなたとともにおられます。
あなたは女のうちで祝福され、ご胎内の御子イエスも祝福されています。
神の母聖マリア、わたしたち罪びとのために、今も、死を迎える時も、お祈りください。アーメン。

◇「マリアの娘たち」が持ち寄るごちそうの中の、deviled eggs という卵料理は、春のイースターを始めピクニックやパーティによく登場するもので、とくに中西部・南部で好まれ、デビルドエッグ専用皿というのも売られているそうです。ゆで卵を半分に切り、黄身を取り出しマヨネーズやスパイスで和えたのをまた白身の中に盛り、ピクルスやパプリカで飾りつけたものです。
発祥は古代ローマといわれており、deviledとは、スパイシーで風味の強いという意味です。
deviled eggs で画像検索すると、いろいろな写真が出てきます。

(∀)

Sep. - Oct., 2012
第9章
朝から気温38度 昼前には39度になるという日、リリィはオーガストとミツバチの給餌器に砂糖水をやる作業に追われた。水をやらないと熱でミツバチがやられる恐れがあるからだ。
リリィは巣箱のふたを閉めようとした時手首を刺さされてしまう。オーガストは「蜂に刺されもしないで本物の養蜂家にはなれないわよ」と云う。リリィは、オーガストから「蜂が好きだとか云ってたでしょ。好きならちゃんとした養蜂家になれるわよ」と言われて全身に充実感が出てきた。

すべての蜜箱に水をやる作業に午前中いっぱい懸かってやって帰るとお昼が待っていた。メイとロザリンが散水栓の水をくぐって遊んでいる。リリィ達も出て行くとホースの先を向けたロザリンが水を向けてかけはじめた。四人が水を浴びびしょ濡れになって踊り回った。部屋の中でチェロを弾いていたジューンがかっかと怒ってドアから出てきた。そこへ調子に乗ったリリィが水を引っかけた。ジューンはすかさず「何すんの、馬鹿」とリリィに水をかける。終いには膝をついて取っ組み合いになる。メイの「おお、スザンナ」が始まったらみんな笑い出した。ジューンも目が和らいだと思ったら一気に笑いだし草の上にひっくり返る。リリィも隣に座り込んで二人で笑った。立ち上がったらなんとジューンがリリィを抱きしめた。濡れた衣服が音を立てるほど。二人の気持ちが通じ合った瞬間。

蜜小屋に戻ったリリィはバックから母の写真と手袋を取り出した。手袋をはめて見たら、急にきつくなった気がした。もう少ししたら手袋も入らなくなると思ったら不安に押しつぶされそうになった。嘘ばかり並べて暮らす事には疲れた。でもほんとのことを言ってこの家を追い出されるのはもっといやだ。

考えるのをやめ、母屋をのぞきに行くとキッチンでメイがクラッカーの箱を膝にのせていた。「ごきぶりがいたのよ」とメイはマシュマロを小さくちぎっている。どうかしている。とその時目の先に、クラッカーとマシュマロの小道が見えた。流しの下からドアへとメイが作った道。リリィの記憶がよみがえる。T・レイが「おまえの母親は虫となると異常になった。マシュマロをちぎったりクラッカーを割って道をつけて家から追い出した」。
メイから母がゴキブリ逃がしの術ををならったなんて事があったのだろうか?この家に確かに母がいた事がにわかに現実味を帯びてきた。
メイに尋ねると「デボラ・フォンタネル。しばらく蜜小屋にいたっけねえ。かわいい人でさ」

それから数日間リリィはどうかしていた。オーガストに母のことを聞きだしたい。でも怖い。宙ぶらりんの日々。そして今日こそ洗いざらい打ち明けようと思い、母屋へ向かったリリィをザックが町へ誘った。車のラジエータホースを買いに行く用だった。ザックと町の駐車場へつくと、白人の男性が5,6人うろついていた。今日は金曜日ジャック・パランスがティブロンの町にやって来るのを待ち受けていたのだ。そこへ黒人の少年達が3人来て白人達をにらみつける。いちゃもんをつけられた少年の一人が白人に向かってコーラの瓶を投げつけた。血が噴き出す。ザックはリリィに、「帰りましょう」と云われるがそうしなかった。警官がザックと少年達三人をパトカーに乗せて去った。リリィはやっとの思いで歩いて家にたどり着く。
メイにはザックのことを知らせないようにしていた。8月2日の夜、たまたま電話に出たメイがザックの逮捕のことを知ってしまう。魂を失ったようにメイは放心状態となる。オーガストの介抱でやっと口がきけるようになったメイは一言「あたし、壁に行く」と言い残して、夜の闇に消えた。

(い)

Aug. - Sep., 2012
第8章
オーガストが7月を数日残すカレンダーを破る。8月は自分の月だから。子供の頃は、自分の月がくるとお手伝いは免除、好きなものを食べることも夜更かしもOK。オーガストは皆が寝静まった後、読書にいそしんでいた。

ザックが納品と代金の回収に出かけている間、オーガストとリリィはハチミツの瓶のラベル張りに精を出す。手を動かしながら会話も弾む。オーガスト曰く、ラベルの聖女はボヘミアの「ブレズニチャールの黒マドンナ」といい、母親が集めていた聖人のカードをきっかけにして見つけたもの、客間の黒いマリア像は、元々船の舳先についていた像だったが、心の支えが必要な人がそこにマリア様を見いだし崇拝の対象となったもの。そして南北戦争のころ、オーガストの祖母の家にたどり着いたらしい。オーガスト始めボートライト姉妹は夏になると祖母の家に泊まりに行き、話し上手な祖母から様々な逸話を聞かせてもらうことが何よりの楽しみだったという。

また、祖母は養蜂家だったが、母親は家を出てリッチモンドの親せきの家に身を寄せ、ホテルの洗濯係として働いていたとき、歯の治療に行った先で、歯科医の父親と出会った。祖母がオーガスト姉妹に家と土地を残して亡くなると、オーガストは6年間続けていた教師を辞め、以来18年間養蜂を続けている、自由であることが結婚より優先順位が高いので結婚はしないと語った。

オーガストは身上を語る間にリリィへの質問も忘れない。「このラベルの黒マドンナ以外に好きなものは?」 の問いに、リリィは母の写真と手袋とあの板絵と答えたいところをぐっと呑みこむ。「ロザリンと作文、塩ピーナッツをいれたコカコーラに青い色。今は蜂とハチミツも」 本当は「あなたも」と言いたかったがとってつけたようで言えなかった。するとオーガストはエスキモーには好きを意味する言葉が32もあるのに自分たちの言葉は限られていて残念だと言って、自分もピーナッツ入りコーラと青が好きだと教えてくれた。

ラベル張りを終え昼食まで時間があったので二人は巣箱のパトロールに出かける。そこで蜂に取り囲まれしばらく我を忘れるリリィを見て心配したオーガストは、一度ちゃんと話そうと持ちかけるが、リリィにはまだ心の準備ができていなかった。

家へ戻るとザックが町で話題になっているニュースを持ち帰っていた。金曜にジャック・パランスという映画スターが黒人のガールフレンドと映画館に行って白人用の席にすわるらしい、それで町が騒然としているという。メイを動揺させないため、オーガストは昼食の合図をしてこの話題を打ち切った。

食事が終わると、リリィはフォレスト法律事務所にハチミツを届けにいくザックに付き合う。受付のレーシーさんは80才くらいの白人女性で、初対面のリリィにどこに住んでいるのかを尋ねる。「黒人と同居するなんておかしな娘だ」と噂する様子が目に浮かぶようだった。

フォレストさんのほうは人のよさそうな紳士で、ザックに見せたいものがあると事務所に来るように誘う。遠慮をしたリリィは待合室に独り残される。壁に飾ってあるフォレストさんと娘さんの仲睦まじげな写真を見て、ふと父親のTレイは自分の好きな色を知っているか無性に知りたくなり、目の前にあった電話の受話器をとって自宅にコレクトコールをかけてしまう。 

電話にでたTレイは大声で怒鳴りちらし、罵りことばを吐くだけ。勿論、リリィの好きな色など知るわけもなく、電話を切った後は、こんなことはどうってことはないと涙をこらえるのに精いっぱい。その晩、リリィはTレイ宛に出さない手紙を書く。そしてトイレ帰りに、自然と足が向いた客間で、マリア像を前に祈りを捧げながら、初めて手のひらをその胸のハート形に押し当てる。

(☆)

July, 2012
第7章
ハンサムな黒人少年、ザッカリー・リンカーン・テイラー、通称ザックがハチミツ農園の手伝いとして登場する。親しみやすい性格のザックとリリィはすぐに打ち解け、ペアーで仕事をするようになる。日課となった木陰のランチでは、好きな科目や将来の夢など同世代ならではの話題に花を咲かせ、リリィにとって最も楽しい時間となる。高校2年のザックは大学で法律を学びたいと語り、リリィを驚かせる。

一方、母親の足跡をたどるという本来の目的はなかなか果たせない。ロザリンからは「いつまでこの夢の世界に留まるつもりか」と責められ、ジューンのそっけなさは相変わらずだ。彼女の「もう2週間になる?」という嫌みに真っ向から対峙していると、通りがかったオーガストが助け舟を出してくれた。ジューンが去ったあと、オーガストから胸の内を話すよう促されるが、母の写真を見せても「知らない顔だね」という答えが返ってくるのが怖くて何も話せない。

ジューンは毎晩のようにやってくるニールのプロポーズを断り続けるが、その裏で秘かに泣いていることにリリィは気づく。

ある日、リリィとザックはエルダーベリーのハチミツの巣箱の回収に出かける。途中、道端に積もった綿花を見て、その白雪のような綿花に包まれて抱き合って眠るザックと自分を想像する。我に返ると恥かしさのあまり体が震えだし冷や汗まで出てくる。でこぼこ道では車の天井に頭がぶつかって、今度は大笑いが止まらない。

目的地に着き、巣箱からザックがハチミツを指ですくってなめさせてくれる。その後、顔を寄せてきたのでキス?と期待するが、ザックは仕事を再開する。きまずい雰囲気のまま帰途につくが、標識に地元出身の有名作家の生誕地と書いてあったことで会話が始まり、リリィが作家志望であるという話になる。リリィは信号待ちで止まったカフェに漂う牛糞の臭いが情けなくて怒りがこみあげ、ついにはわっと泣き出す。リリィはザックが隣にいるとなぜか自分をコントロールできないと悟る。そんなリリィをザックは優しく慰める。

蜜小屋に戻るとロザリンがメイの部屋へ移るという。ロザリンの引っ越しに付いて母屋にいくと、ジューンとニールが大ゲンカ。挙げ句、ニールの去り際に、ジューンは彼の車にトマトを投げつける。

初めての一人の夜、リリィはロザリンの鼾から解放されるも静か過ぎて寝付けない。想いはザックから母親へと移り、恋しさが募る。

2日後、ザックが可愛いノートをプレゼントしてくれる。リリィはそれに物語を綴り、ランチの時間にザックに読み聞かせる。
コメント
ザックの名前は第12代アメリカ大統領のザカリー・テイラーと第16代のエイブラハム・リンカーンに因んだもの。Wikipediaによるとテイラー大統領は奴隷制度には穏健的で、南部からの反発をかったとある。リンカーン大統領はご存じのとおり奴隷解放を行った。

ザックが法律家になる夢を持っていることにリリィは驚くが、人種差別が激しい南部で育った14才の少女にとっては無理もない反応だろう。黒人に対してステレオタイプなイメージしか持ちえなかったリリィが、経済的に自立し、人格的にも優れた点をたくさん持つポートライト姉妹や、賢く思いやりのあるザックと知り合ううちに、偏見を捨て尊敬の念を抱くようになっていく様子が、成長の一過程として描かれている。

また、本章はリリィが初めて異性を意識した瞬間がユーモラスに、捉えようによっては痛々しく描写されている。どぎまぎする気持ちを隠そうと不機嫌になったり、泣いたり笑ったり、隣でハンドルを握るザックはさぞ面食らったことだろう。

(☆)

June - July, 2012
第6章
オーガストがメイについて話してくれた翌朝ジューンがトラックのエンジンの具合を見ている背の高い黒人と楽しそうに話しているのを見た。キッチンでパンケーキを作っていたメイから、彼はジューンの勤めている学校の校長でジューンに好意を持っているんだがジューンは結婚するでもなく袖にするでもなくずるずるひっぱっている。ジューンはずっと昔決まった人が居たが結婚式の当日その人が来なかって以来男嫌いになったと聞いた。
日曜日みんなで教会に行くのかと思っていたらこのピンクの家に「マリアの娘たち」と称する団体の人達が集まって来て儀式が始まった。オーガストがリーダーで女5人と夫婦者1組それにこの家の姉妹とリリーとロザリーン計12人が例のマリアの木像を半円形に囲んで座る。ジューンガチエロを弾き皆でお祈りをした後オーガストがリリーとロザリンにはこの“鎖のマリア”の話をしていないからと言って黒いマリアの木像の謂れを話した。昔一人の奴隷が川岸に流れ着いたこの木像を見つけ仲間の力も借りて黒人教会へ運び込んだ。奴隷の中の最長老のパールという女がこのお方こそイエスの母マリア様と言い日曜ごとに人々が集まって踊りマリアの胸に手を当てる。マリアの噂は主人の耳にも達し彼はマリア像を荷車で運び去り納屋に入れて鎖で縛り付けておいた。ところがマリアはその夜のうちに鎖を振りほどいて1人で黒人教会に逃げ帰っていた。それから50回同じ事をくり返し遂に主人も諦めた。ジューンがピアノに切り替えて賛美歌をジャズ風にがんがん弾き、オーガストがリードして前の人の腰をつかんで列を作らせ部屋の中をぐるぐる練り歩いた。踊りが終ると1人ずつマリア像の胸の薄らいだ赤いハート形に手を触れる。皆に続いてロザリンも済ませリリーもそうしたいと思いもう少しで手が届きそうになった時ジューンが突然曲の途中で音楽を止めた。リリーは気絶して倒れた。

(KO)

May - June, 2012
第5章
リリーたちがオーガストの家に来て一週間たった。リリーは蜜小屋でオーガストを手伝って仕事ぶりを認められ、ロザリンはメイと台所仕事に精を出し、父親の家にいた時には知らなかった、居心地のよいあたたかい家庭の雰囲気を味わった。しかし、三姉妹の中でジューンだけは、リリーたちの滞在を快く思っていないようだった。
ある晩、オーガストとジューンの会話を耳にしたリリーは、オーガストもリリーの話が作り話だとわかっていながら、何も言わずに泊めてくれていることを知る。リリーはジューンの"But she's white."という言葉に、白人と黒人の間の大きな壁、その壁によって今は自分のほうが排除される側である事を感じ、ショックを受ける。すべてを包み込んでくれるようなオーガストへの感謝はあっても、まだいまいちその本心がつかめず、全幅の信頼は出来ないリリー。
オーガストはリリーに、修道院を逃げ出した若い尼僧が、数年後戻ってみると、聖母マリアがずっとその尼僧として修道院に存在し、誰も彼女が逃げ出した事など知らなかったという逸話を語ってきかせる。まだ警戒心を解く事は出来ないリリーだが、聖母マリアに救いを求める気持ちは自然に生まれてくるのだった。
オーガストはまた、メイのことも包み隠さず話した。メイと双子で産まれたエイプリルが幼い時に、黒人という理由だけで不当な侮蔑と暴力を受け、次第に精神を病み、15歳で猟銃自殺をしてしまったこと。それ以来、メイも「心が自分の胸より外に出て」世界中の悲惨な出来事を、すべて自分自身の体験として受け止めてしまっていること。ジューンとオーガストが、少しでもメイの救いになればと、メモを石の間に挟み込む「歎きの壁」を裏庭に作ったこと。
ロザリンに「母親へのこだわりは捨てたほうがいい。知らなかったほうがよかったという事もある。」と忠告されて反発したリリーは、こっそり母の名前を紙片に書き、「歎きの壁」の石の間に挟む。そして、オーガストにはまだ何も打ち明けないまま、この町と母の接点を自分で調べてみたいと思うのだった。
コメント
◆原作者スー・モンク・キッドのホームページの中に、この小説の「読書の手引き」?のようなページを発見しました。
http://www.suemonkkidd.com/SecretLifeOfBees/ReadersGuide.aspx

ツイッターやメーリングリストもあるらしく、読者との双方向コミュニケーションに熱心な作家のようです。

◆主人公のリリーと同じく60年代に少年少女時代を過ごした世代の読者には、話の中にチラっと出てくる当時のあれこれが懐かしく思い出されるはず♪

◇Walter Cronkite
"Take everything T. Ray was not, shape it into a person, and you would get Walter Cronkite." 
とリリーには描写され、
"the most trusted man in America"
と称されたウォルター・クロンカイトは、エリザベス女王の戴冠式やケネディ暗殺など30年にわたってCBSニュースの報道にあたりました。彼の愛国的でありながらリベラルな姿勢は、多くの米国人の信頼と共感を得て、大統領以上に信頼すべき存在といわれ、クロンカイトがベトナム戦争の継続を批判した時、ジョンソン大統領が
"If I've lost Cronkite, I've lost Middle America."
と言って大統領二期への出馬を断念したというエピソードもあります。
当時の日本のテレビにはアナウンサーはいても「ニュースキャスター」という存在は目新しく、輝かしい存在でした。現在の日本のキャスター達も、多くがクロンカイトを目標としていたのではないかと思います。

◇spy satellites
米国の偵察衛星の最初はアイゼンハワー政権下の1959年に打ち上げられた「コロナ」でした。カメラを搭載し、フィルム缶を入れたカプセルがパラシュート降下中に特殊装備の航空機で空中回収されるというものでした。翌年1960年、ソ連を偵察飛行していた米国偵察機U-2が撃墜され、米国がソ連を偵察していた事実が発覚。このことが、まだ技術的に難しいとされていた人工衛星による偵察の実用化に拍車をかけることになりました。コロナシリーズはCIAと米空軍により70年代初期までソ連・中国などの写真監視に使われました。
まさに東西冷戦まっただなか、米ソが存亡を賭けて軍事競争・宇宙開発競争に血道をあげていた時代でしたね〜
核戦争の危機も当時は深刻に論じ合われた問題でしたが、現在の国際テロや原発問題に比べると、良き時代だった気もします。しかし公民権法制化の陰で多くの黒人の血が流されたことは忘れてはならないし、建前とうらはらの差別や搾取は、日本人にとっても他人事ではないですね。

(∀)

Apr. - May, 2012
第4章
「黒マドンナはちみつ」をつくっている人はオーガスト・ボートライトという黒人の女性だった。他にジューンとメイの姉妹もむかえてくれた。リリーは家出してきたのでしばらく仕事をさせて欲しいと頼む。それからヴァージニアにいる叔母を訪ねると嘘をついた。オーガストは反対する妹を説得し二人は蜜小屋に泊まることになった。大部屋に蜂蜜作りの機械がならんでいて甘い蜂蜜の匂いが立ちこめる。奥の小部屋に二つベットが並んでいた。きれいな白いシーツ。扇風機もあった。ロザリンの顔の傷を見て問いただすオーガストに階段から真っ逆さまに落ちたとリリーはまた嘘をついた。夕食までの間二人はベッドに横になる。リリーは黒人の家に泊めて貰うのは初めてだった。T・レイに利口な黒人はいないと言われ自分もそのように思ってきたが、蜂蜜の分離器を動かして見せてくれるオーガストは知性と教養にあふれてみえた。
リリーはロザリンにバックに入れている黒いマリアの板絵のことは秘密にしておくようにと念を押すが自分でもオーガストに母親の事をいうのがなぜ不安なのか説明がつかなかった。
翌朝外を散歩したときリリーは庭に石垣でできた低い壁を見つけた。メイが悲しみを癒す場所だった。太陽が降り注ぐ中、リリーはここでずっと暮らせたらいいと思った。
感想
おかあさんの遺品の中にあった黒いマリアの板絵がリリーを蜂蜜農家の黒人の姉妹に引き合わせてくれた。すべてをわかって包み込むようなオーガストのやさしさにこちらも癒される思いです。

(い)

Mar. - Apr., 2012
第3章
ヒッチハイクでティブロン近くまできたリリィとロザリンは、翌朝川べりの葛のつるのベッドで目を覚ます。照りつける日差しのなか、ふたりは空腹を抱えながらティブロンへと歩きだす。日曜なので店は閉まっているし、黒人のロザリンを泊めてくれるホテルもない。これからどうすればいいのか、リリィは不安でいっぱいになる。
やっと見つけた町はずれの食堂兼食料品店でテイクアウトのBBQポークとコーラを待つ間、リリィはカウンターに黒いマリア像があることに気付く。母が持っていたのとそっくり同じ絵がはちみつの瓶のラベルに印刷されているのだ。店主によると、この「黒マドンナのはちみつ」という商品はオーガスト・ポートライトという養蜂家の黒人女性がつくっているという。リリィは彼女の家までの道順をきき、外で待っていたロザリンに、興奮に胸を躍らせながらオーガストは母の知り合いかもしれないと話す。しかしロザリンは冷静な態度で、あまり期待し過ぎないようにと諭すのだった。
コメント
この物語の舞台であるサウスカロライナは1861年に始まった南北戦争が始まった地で、本章にも北軍のシャーマン将軍の名前や、裁判所前に置いてある南軍の旗が差し込まれた大砲、サムター砦など戦争ゆかりの事柄がでてきます。1865年に南軍最後の部隊が降伏して、死者60万人を超すアメリカ史上最大の被害を生んだ戦争は終わったのですが、リリィの述懐にもあるとおり今も南部人はまず南部ありきでアメリカは二の次という高いプライドを持ち続けているということです。誇り高き南部人というと往年の名画「風と共に去りぬ」の主人公スカーレット・オハラが浮かんでくるのは私だけでしょうか。

(☆)

Jan. - Mar., 2012
第1章・第2章
舞台は1964年、人種差別が公然と行われていたサウスカロライナ。もうすぐ14歳になるリリィは桃農園を営む父親のT.レイと二人暮らし。母デボラが十年前にリリィが原因の事故で亡くなって以来、黒人の家政婦ロザリンがリリィの世話をしてきた。父親との関係はあまり良好でなく、こっそり果樹園に隠した形見の品々に触れては母を偲んでいた。 

14歳の誕生日にリリィとロザリンは町へ出かけ、トラブルに巻き込まれて警察に連行される。制定されたばかりの公民権法に基づき選挙人登録をしようとしたロザリンが、白人男性から嫌がらせにあい暴力を受けたのだ。リリィは留置場に拘留されたロザリンを助けてほしいとT.レイに頼むがとりあってくれない。そればかりか怒りにまかせて、母親は亡くなった日にリリィを置いて家を出ていこうとしていたと告げる。それは母の愛を唯一の心の拠り所としていた少女には信じがたい言葉だった。
リリィはロザリンを独力で助け出すと家には戻らず、二人してティブロンの町を目指してヒッチハイクを始めた。ティブロンは母の形見のひとつ、黒い顔のマリア像の板絵の裏に記されていた地名だった。
コメント
原題は”The secret life of bees”といい、物語の随所に蜂が登場します。

冒頭ではリリィが寝ていると壁の隙間からたくさんの蜂があらわれて部屋をぐるぐると飛び回りますが、父親を呼んでくると蜂はきれいさっぱり消えています。かつがれたと怒る父親に証拠として見せるために捕まえた蜂は、閉じ込めていた瓶のふたを開けても逃げようとしません。

いずれもリリィの無意識な思いを象徴しているように思われます。もっと言えば1章で描かれている蜂はリリィそのものといっていいかもしれません。第2章では意識下に閉じ込めてきた思いが遂に天の声となって降ってきます ―
”Lily Melissa Owens, your jar is open”(リリィ・メリッサ・オーエンズ、お前の瓶のふたは開いている。)
 その啓示を聞いたリリィは置手紙を書き、亡き母の軌跡をたどる旅に出ます。黒いマリア像の板絵というのも何やらミステリアスですね。当時の世相も含めて物語を味わっていきたいと思います。

(☆)

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