Apri 26  May 10

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Hanalei Bay

      by Haruki Murakami

新潮社
東京奇譚集
May 10, 2007(P9〜)
あらすじP9~

サチがピアノを弾き始めたのは高校生の時。すぐに独学で弾けるようになった。音楽教師の勧めでジャズを始めたが、音符を読むのと即興で演奏するのが苦手でピアニストになる夢はあきらめた。 高校を卒業し父のレストランを継ぐことにし、本格的な料理を学ぶためシカゴの料理学校に通い始めた。やがて同級生に勧められてピアノバーでアルバイトを始める。どんな曲でもすぐに弾けたので気に入られ、愛嬌のある顔が人気を呼び彼女を目当ての客が増え学校も辞めた。ある日不法就労がばれて一年半のアメリカ生活は終わりを告げ、サチは東京に戻ってきた。そして再び、ホテルやナイトクラブで弾き始めた。

24歳の時ひとつ年下のジャズギタリストと結婚。二年後に息子が生まれた。相手の彼は収入がなく、ドラッグの常習者で家にたまに帰ると暴力をふるった。5年で破綻。別の女性の部屋で心臓発作を起こして彼は急死したのだ。

サチは六本木に自分の店を持った。内緒で彼に生命保険をかけていたのと、銀行から融資を受けることができたからだ。有能なマネージャーを雇い、店は繁盛した。そして息子が19歳の時ハワイに行くといった。 気が進まないままお金を出してやる。これ以上息子と言い争うことを避けたからだ。そして息子はハナレイベイで鮫に襲われ19歳の短い人生を終えた。 

ハナレイに滞在中サチはときどきレストランでピアノを弾いた。ギャラは出ないがピアノを弾くと気持ちが広々した。波に乗っている時の息子も同じ気持ちだったのだろうとサチは思う。

息子はわがままで勉強嫌いで集中力がなくサチはそんな彼をもてあましていた。もし血がつながっていなければ絶対に近寄りもしないタイプの人間だと思う。息子を甘やかして育ててしまったのは自分の責任だが具体的にどうすればよかったのかサチにはわからない。

ある晩、サチがピアノを弾いている店に日本の二人のサーファーが食事にやってきた。彼らはお世話になったサチにご馳走したいと言った。二人はハナレイでのサーフィンが最高に楽しかったことをサチに伝える。そして片足の日本人のサーファーの話を切り出した。ビーチで2回見た。サチが毎日座っている場所の近くで。その青年は日本人に間違いない。しかも右足が膝のところからなかった。

サチはそれから毎日必死で片足のサーファーを探して歩いたが結局会うことはできなかった。

日本に帰る前の晩、サチは枕に顔をうずめて泣いた。サチは気がつく。何はともあれ自分はこの島を受け入れなくてはならない。公平であれ不公平であれあるがままに。

サチは毎晩ピアノを弾く、何も考えないで。そしてピアノを離れると秋の終わりの三週間のことを思う。ハナレイベイに打ち寄せる波の音とビーチを渡る風のことを。
コメント
村上春樹は世界中の特に若者に絶大な人気の作家だ。この作品では様々な経験を経て自立して生きている中年女性サチが主人公だ。

偶然出会った2人のサーファーに親切にアドバイスする。 しかしサチは実の息子を好きになれずほとんど会話もないまま息子を失うという辛い過去を持っている。2人に接することでサチは息子の気持ちを理解し、彼に近づいた気がした。一方若者2人も母親のような年齢のサチから親切にされ、直に感謝の気持ちをあらわす。そんな彼らだって実は家族とのトラブルを抱えているかもしれないのだ。

登場人物が実にリアリティを持って描かれている。 自分を見失うことなくしっかりと毎日を生きているサチ。 外見とは別に素顔は健康的でまっとうな若者達二人。どこにでもいそうな彼らを通して村上春樹の読者へのメッセージが感じられる素敵な作品でした。AKIさんの作ってくださったハナレイベイのページがすばらしく素敵でどこからか波の音が聞こえてきて浜辺の風さえ感じてしまいます。この本を紹介してくださった☆さんにも感謝です。    

(I)

April 26, 2007(〜P9)
サチの息子は19歳のときに、ハナレイ湾(ベイ)で鮫に襲われて亡くなった。
ホノルルの日本領事館から知らせを受けたサチは、本人確認のためにハワイに向かう。警察署の死体安置所で対面した息子の遺体は、右脚が膝のところからなくなっていた以外は普通に眠っているようだった。

サチは、担当の日系人の警官に息子の亡くなった場所を聞く。警官は一人息子を亡くしたサチに深い同情を寄せながらも、時には人命をも奪う荒々しさを秘めた現地の自然について理解を求める。 そして、サチの息子は自然の循環の中に戻っていったと考えてほしい、と頼む。

翌日、小さな骨壷を持ってハナレイ湾を訪れたサチは、砂浜に座って波乗りに興じるサーファー達を眺めているうちに、過去も未来も遠のいていくのを感じる。 

サチは近くのコテージを借りて、一週間の滞在中ずっと砂浜でサーファー達を眺め続ける。 それが自分を取り戻す唯一の方法だった。

翌年から、サチは毎年この時期にハナレイ湾を訪れる。 命日をはさんで3週間ほどの間、サチはサーファーを眺めるほかは特に何もしない。 それを10年続けているうちに、何人かの知り合いもできた。

ある日、ヒッチハイクをしていた二人の日本人青年を乗せたサチは、彼らの無知で無防備な態度に呆れながらも、危険を避けるアドバイスを与え、宿泊場所を探してやる。
コメント
本作“Hanalei Bay”は、昨年、国際的な文学賞であるカフカ賞を受けた村上春樹の短編集“Blind Willow, Sleeping Woman”に収められています。 原作は、2005年に新潮社から出た「東京奇譚集」の一編です。 

村上氏は同時代作家として欧米のみならず、中国でも広い支持を集めているようですが、先日、ロシアでは日本文学ブームの火付け役となったと報道されていました。 ご自身がやっていたHPによると、村上氏はドフトエフスキー(特に「カラマーゾフの兄弟」)の大ファンなのでこれは嬉しいニュースなのではないかと勝手に推測しています。

本作は、彼の作品の特徴である比喩と伏線がほとんどないので、英訳でも読みやすいのではないでしょうか。 物語は、淡々とした描写と簡潔な言葉で語られますが、ストーリーはサチの人生を含め起伏に富んでいます。 

サチが息子の火葬の費用をクレジットカードで払うくだり、”Here I am, paying the cost of having my son cremated with an American Express card, Sachi thought. It felt unreal to her, as unreal as her son having been killed by a shark.” (私はアメリカン・エクスプレスで息子の火葬の料金を払っているのだ、とサチは思った。 それは彼女にはずいぶん非現実的なことのように思えた。息子が鮫に襲われて死んだというのと同じぐらい、現実味を欠いていた。)
非日常的な状況において、支払いという日常的な行為を持ち出すことで、奇妙なリアリティを醸し出しています。 また、今回の最後のほうのヒッチハイカーとの会話、ここは逆に映画のワンシーンのような作りこまれたフィクションの小気味良さを感じました。

後半、物語が英語でどう語られるのか、村上氏の乾いた叙情性がどう表現されるのか、たいへん楽しみです。

(☆)

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